母のぬくもり

駅に着くと姉が待っていた。
顔を見ただけで泣きそうになる。

堪える。

車のなかであれよあれよと呆気なく母が最期を迎えたことを聞く。

実家に着くと、葬儀屋が帰るところだった。
近所の人と親戚が葬儀の段取りを決めていた。

挨拶しなくてはと思うが、声を発したら崩れそうで発せられず。

頭だけ下げて奥座敷へ向かう。

白い布が顔に掛けられ横たわる人が母なのだろう。
顔が向く左側に座り布を外す。

涙が溢れたのは、悲しみよりも、あまりにも安らかだったから。
10年ぶりに我が家に帰ってきた母。
良かったね。と思った。

頑張ってくれてありがとう。
お陰で私は、元気な間に何一つ親孝行はできなかったけど、2人の孫の顔を見せることができた。
子育ての苦労を知り、あなたの愛情の深さを、凄さを知り、心から尊敬し、感謝の言葉を伝えることができた。
それはほんの数ヵ月前のこと。

素直になるまで、待っててくれたの?
ありがとうを言えたから、私は明日も生きていける。ありがとう。ありがとうお母さん。ありがとう。

頬を触ると生きてるみたいに柔らかい。
お腹にのせたドライアイスが重いんじゃないか。今にも目が開きそうなただ眠っているだけのような、しっかりとした体温。

腕をさわってみる。
柔らかい。
ずっと病気でこわばっていた両腕も、健常者のように柔らかい。

でも死んでるんだね。
でも怖くない。全く怖くないんだね。

母は長い間入院していた。
お世話になった看護師さんはたくさんいる。

亡くなって、処置室で、看護師がかなり長いこと母の身なりを整えてくれていたそうで、多分、最期に入浴か、体を丁寧に拭いてくれて、綺麗にお化粧してから引き渡してくれたとのこと。
同業の看護師の姉が言うのだから、よほど丁寧だったのだと思う。

感謝しています。
たくさんの方に支えられた闘病生活15年、入院生活10年。
絶望から這い出たのは出産してからで、今は今を大切に思えるようになった。

皆が帰り、遺影の写真を姉妹で探す。

懐かしい母の笑顔。
今の自分より若い母。

ごめんね。
私はいい娘ではなかった。

あなたともっと話せば良かった。
もっと一緒に旅行をしたり、ショッピングをしたり、お料理したり。
もっともっとあなたのことを知ろうと、なぜあの頃の私は出来なかったのだろう。

バカヤロウですね。

これからずっと後悔して生きます。他のことでもう後悔しないために。

あなたがくれた教訓。

守ります。

お休みなさい。